『愛花』

ラスト 想い

 ──三年後。

 篠山崇から、久し振りに飲まないかと誘いがあった。
 お互いに忙しく、なかなか会うことができないため、改めて誘ってくれる時は何をおいても行くことにしている。大崎は喜んで、まず玩具売り場へと直行した。

「ほら、先生。子供と遊んでばっかいないで、飲みましょうよ〜」
 大崎が、篠山家に到着した時、篠山はすでにほろ酔いだった。
「愛花。崇さん、上機嫌だね。何か、あったの?」
 キッチンに立つ愛花に近づくと、足元に寄ってきた一人息子の雅(まさし)を抱き上げる。
「賞をね、取ったんです。例の医療過誤の記事で」
「あ…」
「大崎先生の、お蔭でしょ。だから一緒に祝杯あげるんだって。本当に有難うございました。こっちの裁判も控訴なしと連絡がきました」
 大崎は雅をあやしながら、照れて居間へと移動する。
 崇の今日のお酒は、本当に楽しそうだった。

 自分は患者を診ることはない。
 しかし、立派に医者だと宣言する機会を、作ってくれたのは愛花だった。
 そして大崎の作った検査資料をもとに医療過誤を立証したのは、愛花の弁護と崇の記事だ。
 その記事が賞を取った。
 自分は必要ないだろうにと、大崎の瞳が潤む。自分にとって最高の友人。人生の宝。

 いつも人を思いやる二人だからこそ、一生友人でいたいと、今は思う。
 あの頃、愛花を愛した月日も含めて、一生友人でいたい。そして、ふたりからも、最高の友人だと云ってもらえるよう、大崎は心の底から二人を想った──。

 崇の瞳が、キッチンで話す二人を捉えていた。一度は、愛花の追った男だ。
 でも愛花は戻ってきた。そして自分もまた、愛花なしでは生きてゆけないと痛感した、あの時。

 愛花。
 こんな形の愛も、あるよな──。
【了】

著作:紫草


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