『海豚にのりたい』

その壱「龍神の章」

5

海面
 加奈子の体は、今度は海面を漂っていた。泳いでいるわけでもないのに、沈むわけでもなく、ぷかぷかと浮いている。あたりを見渡しても、人も船も何も見えない。初めて見る水平線に昔絵本で呼んだ「人魚姫」を思い出していた。これが浦島太郎でないところが、十七歳の女の子ということだろう。

「あ〜!あれって、いるかだぁ」

 どのくらい離れているだろう。少しグレーがかった白いイルカの悠然と泳いでゆく姿が加奈子の目を奪った。
「綺麗だなぁ」
 ゆっくりとゆっくりと、そのイルカは加奈子に気付いているように彼女を中心として円を描くように泳ぐ。
 どのくらい眺めていただろうか。ふと、加奈子はイルカに向かって話しかけてみた。
「ね〜! 私をあなたの背中に乗せて下さぁい」

著作:紫草



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