『いつまでも我が儘に君を想う』

vol.2

 目が覚めると保健室のベッドの上だった。

 そっか、助かったんだ。
 いきなり呼び出され両手を縛られて身動きがとれなくなった。
 恐かった…
 深く息を吐くと、気付いたかと声を掛けられた。
「小城乃洸」
「フルネームの返事、ありがとう。目が覚めれば一安心だそうだ」
 状況がよく理解できず、ぽかんと開けた口にペットボトルを乗せられた。
「喉乾いてるだろ。飲めよ」
 古都はベッドに起き上がると、お礼を言って受け取った。
 見渡せば、保健の先生はいない。どうやら此処には古都と小城乃の二人きりのようだった。
「その顔じゃ、腑に落ちないことがいっぱいって感じだな」
 彼がそう言うのを受けて、古都はぶんぶんと首を振った。
「ちょうど体育館にいたんだ。岩谷先生に手を貸すように言われて運んできたら、次は保健の先生に同じことを言われた。目を覚ますまでが大事だからってさ」
 そう聞いたところで、保健の先生が戻ってきた。
「よかった。目が覚めたのね。実は緒邑さんのご家族と連絡取れないの。困ったわね」
「え… どうして家族?」
「病院に行く必要はないと判断したけれど、もしご家族が望まれるなら連れて行かなきゃならないから」
 先生は言いながら、何かの書類を書いている。
「結構です。私、一人で帰れますから」
「駄目。肩からだったとはいえ、頭を打ってるかもしれないのよ。今からでも病院に行く方がいいかもしれないのに」
 冗談じゃない。家族に連絡なんて絶対困る。
 でも学校側は連絡が取れないと帰してくれないようだし、古都は途方に暮れてしまった。

「俺が連れて帰りましょうか」
 それは帰ろうと鞄を手にしたまま、廊下で話を聞いていた小城乃からの言葉だった。
「先生、忙しそうだし。そいつの様子は親が承諾したら、このまま帰れるってもんなんでしょ」
 先生がその言葉に、気持ちがぐらついているのが分かる。
「お願いします。先生、私送ってもらって帰ります。親は多分つかまらないと思うので、手紙書いてくれたら見せますから」
 古都の様子に大丈夫そうねと呟くと、担任に話してくるからと出ていった。
「あの、ありがとうございます。校門出るまででいいので、それまで宜しくお願いします」
 そう頭を下げたら、何だか鼻で笑われた気がした。

 そして校門を出て来たのに、洸は変わらず付いてくる。
「あの先輩。もういいですよ」
 そう言っても返事はない。いったい何を考えてるんだ。
「送るから」
 へっ?
「今、何て」
「ちゃんと家まで送るって言ったの」
 そう言うと照れたように古都の持ってた鞄を奪い取った。
「でも先輩の家って、うちと真逆らしいですよ」
 そう言ったら急に彼が立ち止まった。ちょっと恐い空気が流れてるような気がする。
「俺の家、知ってるの」
「いえ、私は知りませんが噂で…」
「君、本屋で会った子だよね。あの近所じゃないの」
 へ〜、憶えてたんだ。ちょっと驚きかも。
「近くです。あの通りを入って、歩いて五分くらい」
「じゃ真逆じゃない。行こう」
 彼は再び歩き始めた。クラブ帰りの生徒たちが指をさしながら小声で歓声を上げているのが分かった――。



著作:紫草

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