vol.5
翌朝、櫻木は駅で古都を待っていた。
相変わらず周りには多くの女生徒たちが陣取り、勝手にしゃべって櫻木を囲んでいる。
「おはよう」
と、いつもながらの爽やかな笑顔に女生徒たちが歓声を上げた。
「うるさい! 先輩、私には、もう声をかけないで下さい」
言った途端、誰かに髪を引っ張られた。その腕を、後ろから小城乃が掴み引き離す。
「篤志。昨日のここでの事、わざと見せただろ」
櫻木の顔が、バレちゃったかと開き直っている。
男二人の存在が、駅の迷惑になるからと学校へ向かって歩き出した。
学校へ着くと、早くも古都の宣言はメールで知れ渡っていた。
「櫻木先輩。私がいると迷惑がかかります。準備委員会は辞めさせていただきます」
代わりの生徒には後でファイルを届けてもらう、と教室へ向かった。
「いいの?」
我がクラスは、櫻木が独断で決めた委員だった。やりたい生徒は山程いる。古都は仕上がっているファイルを渡し、今日の放課後から宜しくと頼んだ。
由起子がジャンケンに負けたとやって来た。
「でも本当によかったの。小城乃先輩のこと、好きなんでしょ」
「いいの。人間の大きさが違いすぎて、とても私にはつきあえないよ。それに…まりんちゃんがいる。小さな子に嘘つけないもん」
「嘘!?」
結局、詳しいことを話さなくとも、かなりの生徒は小城乃の家の実状を知っていた。流石に人気者だけある。
でも、そんな嫌な部分を見なくても先輩には変わりがない。
「だから人気者なんだよね」
由起子の言葉は、優しかった。
「古都」
廊下に小城乃が来て、古都を呼ぶ。
「何ですか」
「文化祭、まりん連れてくるから子守り頼めるかな」
古都は満面の笑顔を浮かべ、喜んでと答えた。
「ねぇ、結局、二人の関係はどうなったの?」
クラスの女子生徒全員の耳が、聞き耳を立てているような気がして、
「秘密」
と答える古都だった。
そんな〜っと全員が言ったのは火を見るよりも明らかである。
――古都には参った。
昨夜のあのタイミングで、篤志とは無関係だと言われるとは思わなかった。
篤志は良い奴だ。
だからこそ、彼奴ならいいと覚悟を決めたのに、目の前でキスするところを見たら我慢ができなかった。
我が儘だと分かっていたのに、自分のことを全部話したいと呼び出した。
篤志から交際宣言されていたから、自分の想いは明らかに横恋慕だと思っていた。そんな想いでも伝えずにはいられなかった。
でも、ぎりぎりで間に合ったんだよな。
邪まな我が儘でも、捉えた君を手放す気はない。たとえ、篤志にどう思われようとも。
今でも気持ちは変わらない。
いつまでも我が儘に、君を想うことを許してくれ。
【了】