続々篇『いつまでも我が儘に君を想う』

『愛という名の我が儘を君に託す』

vol.2

「古都、手伝え」
 生徒会室に差し入れの缶ジュースを運ぶと、いきなり櫻木から声がかかる。
「何ですか」
「副会長が、時間になっても現れない」
 古都は、自分の作ったタイムテーブルを思い出していた。
 今は模擬店の確認に動く人と体育館の出し物の準備と指示をする人。
「何処に行けばいいですか」
「体育館。演劇部と手品部が大道具の置く場所で揉めてるらしい」
 櫻木は何か分かったら電話をくれと言った直後、次の電話をかけている。
 子守りと言っても結局、小城乃がまりんを連れて行った。なら自分が、こっちを手伝うべきだろう。
 櫻木が電話を切ったところで、声をかける。
「私の携帯データ、赤外線送信します」
「サンキュ」
 不本意ですが、と恩をきせるように言い笑う。
 送信完了の画面を確認し、古都は生徒会室を後にした。後ろでは早くも次の電話を掛ける櫻木の声が聞こえてきた。

 体育館での指示を終え生徒会室に戻る。
 流石の櫻木も疲れた様子で、椅子にぐったりと座っていた。
「少し休んで下さい。連絡は私が受けますから」
 古都が補佐を辞めた後、結局彼は新規に補佐を置かなかった。だから今も、一人で動きまわっている。様々な事情があったとはいえ、自分にも責任があるような気がして本番だけでも手を貸すつもりではいた。
 いいのか、と最初こそ言うもののソファに横になるとすぐに寝息が聞こえてきた。
 もしかして、この数日寝てないのかな。
 そう思った途端、彼の手にある携帯が鳴り出した。慌てて駆け寄り取り上げると電話に出る。次から次へとかかってくる電話に、タイムテーブルや人数配置のプリントとにらめっこしながら指示を出し続けた。
 こんなこと、よく一人でやってたよね…
 ソファに眠る櫻木を見る。小城乃とは別のカッコよさを持つ人だと初めて思った。

――古都、今何処にいる?
「生徒会室。櫻木先輩の手伝い。まりんちゃんの子守り、替わった方がいいですか?」
――否、そうじゃないけど… 今からそっち行く。
「いいですよ。まりんちゃんと遊んでて下さい。こっちは何とかなってますから」
 そう言ったところで携帯が鳴り、櫻木が目覚めた。
「ごめんなさい。何かあったら連絡下さい」

 急いで古都は櫻木の携帯を取る。
 でも結局、彼は起きてしまい替われと合図をされる。
 …あっという間に事態を把握し、指示を出す。
 やっぱ凄いな、この人。
「ごめんなさい。もう少し眠ってていいですよ」
「いや、充分だ。ありがとう」
 じゃあ、と古都の持参した缶コーヒーを手渡した。
「お前、ホント役に立つ。助かった」
 古都、と殆んど聞こえないくらいの小さな声で名を呼ばれたような気がした。
「呼びました?」
「好きだ」
 櫻木の告白と、小城乃が扉を開けたのは、ほぼ同時といってよかった。



著作:紫草

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