『祭囃子』
19
そして、月日は流れ───
「父さん。今日、行くとこの人って、父さんの知り合いなんでしょ。どういう知り合いなの?」
京に向かう新幹線の中で、小学六年になった宝雪が不思議そうに聞いてくる。
「父さんのお兄さんだよ」
「!」
そう聞いた宝雪の表情は驚きに満ちている。
当然だろう。俺が一人っ子ってヤツだということは宝雪も知っているからな。
「京都でお世話になったお兄さんだ」
「ふ〜ん」
ふ〜んって、それだけか。最近の子の感動なんてこんなモノかもしれない。
「お前も、いよいよ子供料金が終わるからな。最後の秋休みだ」
「何それ。中学上がっても旅行なら学割きくんだよ。来年もどっか行こうよ。今度は母さんも一緒にさ」
「そうだな。来られるといいな」
富士山を右手に眺め、宝雪は買ったばかりのウォークマンをかばんから取り出し、カセットテープを入れ替えている。全く人の話をどこまで聞いているんだか。俺は小さく肩を落とした。
「母さんも運が悪いよね。因りによってサークルの幹事が同じ日になっちゃうんだから」
「そうだな。企画したのが宮子なんだから仕方がないだろう。お彼岸の墓参は今日しか行けないし、宮子はまた今度一人で来ればいいさ」
久し振りの里帰りを宮子も楽しみにしていた。残念この上ない、とはこのことだろうか。
東京生まれの東京育ち。
でも、俺にとって京は心の故郷だ──。