『祭囃子』
10
父親を殺す。
書類上はまだだが気持ちの問題だ。親父に繋がる全てを、俺は一晩かけて思い出していた。
お袋が云っていた、黙って出ていかなきゃならなかった理由。今の俺になら話してくれるのだろうか…
翌日、教室にいる若菜を見て正直うろたえた。何故なら自分の知る若菜とは別人に見えたからだ。
髪型のせい。制服のせい。
でも、それだけじゃないと思った。一体、何が違うんだろう。
本当にあの若菜か?! もしかすると、よく似た従姉妹とか… また、担がれてんじゃないだろうなぁ。
それから数日たった放課後。教室に若菜だけが残っていた。
「若菜。お前、本物だよね」
「えっ?!」
鳩が豆鉄砲くらった顔とは正にこんな感じだろう。何を云っているんだという顔で睨んでいる。
「いや、あんま雰囲気違うから、本人かなぁと思ってさ」
「莫っ迦みたい」
と残し若菜は帰っていった。
くそ〜
『莫迦とは何だ!莫迦とは。傷つくじゃないか!!』
とメールを打った。当然、返事はなかった。