『祭囃子』
12
──そして再び月日は流れ、数年後。
出張先のトラブルで手配されていた車を降ろされた。一緒に来た人は「あとは帰るだけだから」というので、自分でタクシーを呼び駅に向かった。
俺は翌日も研修が残っており、仕方なく見知らぬ土地で次の指示を待っていた。
何処の行政も三月には工事ばかりだ。それだけは東京と変わらない。幹線道路の脇に作られた高めの花壇に寄りかかる。そろそろ花見の時期だった。
ふと先を見ると、片道を塞ぎアスファルトのはり直しをしている。数名の作業員が各々の仕事をこなして動いていた。
ふと一人の男の姿に目が留まった。背が高い。あまり作業員という感じではなかった。そうこうするうちに休憩時間にでもなったのだろう。その男が、現場を離れこちらに近づいてきた。
心臓が止まるかと思った。
それは遠い昔、記憶の彼方にいってしまった親父の姿だった。