『祭囃子』
14
連絡がつき、廻された車に宿泊先のホテルへ送ってもらう。親父は休憩が終わると仕事に戻らねばならないと云うので、
「終わったらホテルに来て欲しい」
と誘う。親父はあっさりと答えた。
「分かった」
と。
待っている間、もう来ないんじゃないかと思ったり、約束したんだから大丈夫だと思ったりまるで小さな子供のようだった。
今でも憶えている、親父のいなくなった日のことは。
その日は中学の始業式だった。前日の入学式と同じように、玄関先に並び靴を履き少し早めに歩く親父を小走りに追う。真新しい学ランは自分の物というより、まだ借り物のようだった。最後の言葉は「中学、頑張れよ」だった。その夜、親父は帰ってこなかった。
そして、二度と帰ってはこなかった。
お袋は泣かなかった。黙っていなくなった親父を一言も責めることはなかった。俺だけが、ただ無性に悲しくて何日も布団の中で泣いた。
♪ピンポーン
誰かと確かめるのももどかしく、俺は扉を開いた。
そこに親父が立っていた──。