『祭囃子』

第三章「春祭り」

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「大丈夫か、宝雪」
 脂汗をかくなんて体験は初めてだった。横になれと、おじちゃんが座っていた長座布団を空けてくれる。遠慮をするだけの気力も残っていなかった。素直に横になると、おじちゃんに聞いてみた。
「どうして二人は結婚したの。みんな反対したでしょう。みんなを苦しめてまで結婚する必要があったの」
 おじちゃんは、俺の知る中で一番悲しそうな表情をする。
 何?! 俺の云ったことはそんなに悪いことだったの。
 確かに二人が結婚してくれなければ、俺は存在していない。
 でも、こんな近親相姦の中で暮らす道を選ばなくてもよかったじゃないか。
 ただの叔母と甥じゃない。当時は知らなかったかもしれないけれど、父親側から見れば母さんは姉で父さんは弟だった。異母姉弟だったんだ。やめればよかったんだ。みんなを不幸にするだけの結婚なんてやっぱり間違ってると俺は思う。例え生まれてくることが出来なくたって、こんな状況を知ったら仕方ないと思うよ。
 そんなふうに思う俺の顔をおじちゃんは黙って見ている。

「宝雪。理由はお前だよ」
 おじちゃんは、本当に悲しそうにそう云った。

著作:紫草

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