『祭囃子』
3
「どうしたんですか!?」
入学式を終え、各教室に分かれ通例通りの挨拶やら、翌日からの注意やら、今後の予定やら、この日はとにかく忙しい一日なのである。
しかし俺が疲れていたのは、そのせいではなかった。重い足を引きずるように職員室へ入った途端、同僚の紫苑先生に声を掛けられた。
「いえ‥」
何でもない、と云うつもりが言葉にならなかった。
「でも真っ青ですよ。医務室行った方がいいんじゃないですか」
彼の言葉を片手で制し、気持ちを落ち着かせることに集中した。
何なんだよ。
何でアイツがいるんだよ、それも俺の教室にだぞ。冗談じゃない。アイツ、あの時、中学一年だったのか‥。
今更ながら個人名簿にあった同姓同名〜桜木若菜(さくらぎわかな)を見落とした、自分自身を呪うしかなかった。
そうなんだよ、あいつの名字は六条じゃなくて桜木なんだよなぁ。そう思うと力なく笑うしかなかった。
その日、俺が六条亭の扉を開けることはなかった。