『祭囃子』

第三章「春祭り」

4

「お袋、ちょっといい?」
「ええよ」
 その日の夜。自室に入ったお袋に声をかける。まだ起きていたようで、すぐに返事があった。
 久し振りにお袋の部屋に入る。何だろう、懐かしい匂いがする。お袋は、すでに敷いた布団の上で縫い物をしている最中だった。
 枕元に座り込むと、即効本題に入る。
「今日さ、彼女に告白出来なかった」
「・・・」
 当然、沈黙である。かなりしょげてる俺に、お袋は(やっぱりね)という顔をする。
 ちくしょう。何で連れてくるなんて約束をしちゃったんだろう。ただでさえ恥ずかしいことを、いい年した男がお袋に報告する羽目になるとは。情けなくて目も当てられない。

「一言云っとくけど、事情はあるんだからな。勘違いするな。今きちんと説明してやる」
 目一杯かっこつけてみたものの、お袋の目には虚勢を張っているようにしか見えなかっただろう。あゝ気が重い‥。
「あの子、若菜さ。俺のクラスにいたの」
 お袋の表情に疑問符が飛び交っている。
「???」
 そこで覚悟を決め勇気を振り絞って、俺は真実を告げた。
「今年、高一だったんだ」
「え──────っ?!」
「母ちゃん、うるさい!」
「どうして、そういう間違いをするん?お前は。全く、そそっかしい子やねぇ。誰に似たんやろ?! その性格。まぁ仕方ないな、もう三年待ちなさい」

 簡単に云ってくれるな。確かに“玉砕”以前の問題だ。手玉に取られてたのかと思うと何だか悔しくなってきた。
「若菜も若菜だ。一言云ってくれたら良かったのに」
「莫迦ね。中学生の女の子に何無理云うてんの。宝雪が悪い。勝手に勘違いしたんやから諦めなさい」
 相変わらずの容赦ないお言葉、有難う。あえて口にはしなくても、とっくに分かっているだろう。
「よっしゃ。俺も教師の端くれだ。待ってやろうじゃないか、あと三年」
 でも、ちょっと長いけどな〜
 これまで待ったのと同じ時間かぁ。俺一体何やってんだろう。ちょっと弱気になってるかも。

著作:紫草

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