『指環綺譚』

回 顧

 あれは確か、十九の、そう若いだけがとり得の冬の事だった──。

 当時私は、何をそれ程意固地になっていたのか、と思う程全ての事に嫌気が差し、その生活に疲れていた。
 家を飛び出し、名前を隠し、別人となって暮らした、あの十九の冬‥。
 その私の生活に一筋の光が射した時、運命の糸車は私を嘲笑うかの様に廻り始めた。

 誰が予想しえたであろう、それが悪魔に因って手引きされ、咬み合ってしまった歯車だったということを――。


著作:紫草

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