『柿の実味のキス』


 越したばかりの 小さなリビングに
 今年お初の冬支度 と置いた正方形の小さな炬燵
 ブラウンにまとめられた部屋には無駄なものが何もない

 二人 向かい合って暖を取る
 同棲するわけじゃない 私の部屋は解約してない
 でも今夜が二人で過ごす 最初の夜

 買ってきたばかりの柿を剥こうと
 ナイフとまな板 平皿とフォークを持ってきて
 炬燵の上に置く
 彼はきっとフォークなんて使わずに 手でそのまま食べるんだろうなぁ
 そう思いながら皮を剥いていると
 炬燵に頤を乗せ じっと見られているのを感じる

 剥き終わった柿の実を お皿に乗せる
 案の定 彼の手はフォークではなく 直接柿の実に伸びる

 三つ目の柿を手にしたところで 彼がそのまま手を伸ばしてきた
『ほら、口開けろ』
 どうやら食べさせてくれるらしい
 私は柿を半分だけ齧ると 彼は残りを自分の口に放りこんだ
『唾液付き〜』
 そう言って 彼はにやりと笑った…

 柿を剥き終わり ナイフとまな板を片付け戻ると
 最後の一片が 彼の口に納まろうとしていた

 あ〜あ 結局ひと欠片しか食べられなかったか
 そう思って彼を見ると、柿を半分噛んだ状態で おいでおいでと私を呼ぶ
 何だろう と思いつつ彼の隣に座りこむと、彼が柿を銜えたままそれを突き出してきた
 食べろ ということか
 私は 素直にそれに噛み付いた

 ところが意地悪な彼は ちゃんと噛んでいてくれない
 ふわふわと 柿が二人の間で揺れた…

 すると急に私の頤を取り 彼は柿を噛み切った
 私は慌てて 残りの柿を口に食(は)む
『今度は唇つき〜』
 莫迦莫迦しくなって さっきまでの場所に移動しようと思った
 途端に左の手首を掴まれた
 何 と思って彼を見る

『続き』
 そう言ったまま彼の唇は 私に向かい近付いてくる
 次は 柿の味がする とでも言うのだろうか
 そんなことがチラと頭を過ぎり 私は彼の体温を感じながら静かに瞳を閉じた――
【終わり】

著作:紫草

NicottoTown サークル「今週のお題」より 【果実】2010.11.10
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