『バージンロード』

 秋。
 有名な映画のタイトルが頭に浮かんだ。そういいながら見たこともないくせに。
 小さな頃から知る女と結婚を意識することになるなんて、考えたこともなかった。

 悪いこともしたし、警官の見回りの自転車から逃げ切ったこともあったっけ。今思えば、無謀すぎるな。
 人を回りにいつも集めて、何かしら楽しんでいる奴だった。
 ただの友達の一人だったのに…

 別の女の相談もしたし、逆に彼奴の男の振られ話につきあって、一晩飲み明かしたこともある。
 酒に強い奴だったのにいつの間にか余り飲まなくなって、いつの頃からか時折暗い表情をするようになって、その顔を忘れることができなくなった。

 後から思えば、それが分岐点だったのだろう。
 気付けば、一緒に暮らそうと誘っていた。
 強気を自負する女のくせに、言った途端に泣き出した。
 女だな、と思った時に、いつか結婚するんだろうなと思った。

 あれから数年。
 喧嘩もするし、めちゃめちゃ仲良かったりもする。そんな二人は、他人からはどう見えるのだろう。
 でも二人が楽しくて幸せであれば、それでいいか。

 もうすぐ、彼奴は花嫁になる。
 勿論、俺のだ。
 結婚の準備に忙しくなって、口ではあれこれ文句を言うものの、結構楽しんでやっている。
 花嫁衣裳だけは、絶対見るなと言われてまだ見せてもらっていない。
 ま、当日見られるからいいけどさ。

 アレは嫌。コレも嫌。ソレも嫌。
 でも、それが照れ隠しだということも分かっているから内緒でフォローしておいてやろう。
 その代わり、絶対逃げ出すなよ。
 当日、『やっぱり恥かしい』とかって言いそうだからな。ただ、それも後になれば珍しい思い出になるのだろうか。
 否、やっぱりそれだけは阻止しなければ。

 幼馴染みの花嫁。
 どんな顔をして、バージンロードを歩いてくるのだろう。
 きっと見慣れた筈の彼奴の顔が、別人のように見えるんだろうな。どきどきして、綺麗で、今までよりもずっと愛おしくなる。
 でも、それは俺だけの秘密。誰にも明かさない。

 幸せになろうな。
 喧嘩しながらでも、何があっても守ってやるから。
 だから、ずっと仲良く暮らそう。

 四季の物語シリーズ完結編『恋の秋』
 新婚旅行がちょっとお預けになっちゃうから、二人でワインでも飲みながら『恋の秋』でも借りてきて見ようか。

 秋は、恋を失うばかりの季節じゃない。こんな秋があってもいいよな――。
【了】

著作:紫草

NicottoTown サークル「自作小説倶楽部」より 10月分小題【恋の秋】
a literary work at Nicotto Town
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