『予感』

 目の前に在る、この道。
 いつか、どこかに繋がる道。
 でも、それがいつ、何処に繋がるかは分からない。
 そして、繋がった先に何が待っているのかは決して誰にも分からない――。

 疲れた、と聞いたその刹那。全ての時が止まったかと思った。
 恋のなかで『疲れた』は、その終わりを示す。
 そんな思いを抱かせてしまった自分に向け、突き刺さった言葉の刃を抜くこともできず、止まってしまった時のなかに身を置き続けた。

 凍てついた心は、更に全てを凍らせてゆく。

 どうせ嫌われるなら、死ぬほど嫌われたらいい。
 凍った心は何も感じない。
 どんなに痛めつけられようが、感じる場所は無い。
 世界が鈍色(にびいろ)に、どんよりと歪んで見える。その中に何かが見えている。

 これは何?

 進むこともできず、ただ佇むしかできない自分に、それが何かを確かめることはできない。
 ただ堕ちてゆく気持ちを止める術はない。底なしの沼に沈んでゆくような感覚。そんな時に見えた、道。

 これは何?

 嫌だ。
 ここを進めば、きっと知らない場所にゆく。
 動きたくない。行きたくない。
 目を覆い、耳を塞ぎ、そして心を固く閉ざす。

 この恋だけは失いたくないと、ただそれだけを願っていた。もう戻らない時の流れは、早くも次の運命の場所を探してる。
 そして無理矢理、自分を何処かへ連れてゆく。

 疲れた…
 木魂のように、頭の中に響く言の葉。
 現れた、何処かへと続く道。

 進むためには一歩を前に出さねばならない。
 足は動かない。

 誰か、助けて。
 背中を押して。
 何処へいくのかは分からないけれど。

 予感は、吉兆どちらの道だというだろう。
 突き刺さった言葉の刃が、再び抜けるとは思えない。失ったものの大きさを、確かめるのは怖いから。
 振り返ることもできず、過去に縛られて生きていくのも嫌だ。

 助けて。
 この道を歩く、強さを分けて。
 この凍ってしまった心を温めて。そして突き刺さる、刃を熔かして。

【了】

著作:紫草

NicottoTown サークル「自作小説倶楽部」より 6月分小題【道】

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