目の前に在る、この道。
いつか、どこかに繋がる道。
でも、それがいつ、何処に繋がるかは分からない。
そして、繋がった先に何が待っているのかは決して誰にも分からない――。
*
疲れた、と聞いたその刹那。全ての時が止まったかと思った。
恋のなかで『疲れた』は、その終わりを示す。
そんな思いを抱かせてしまった自分に向け、突き刺さった言葉の刃を抜くこともできず、止まってしまった時のなかに身を置き続けた。
凍てついた心は、更に全てを凍らせてゆく。
どうせ嫌われるなら、死ぬほど嫌われたらいい。
凍った心は何も感じない。
どんなに痛めつけられようが、感じる場所は無い。
世界が鈍色(にびいろ)に、どんよりと歪んで見える。その中に何かが見えている。
これは何?
進むこともできず、ただ佇むしかできない自分に、それが何かを確かめることはできない。
ただ堕ちてゆく気持ちを止める術はない。底なしの沼に沈んでゆくような感覚。そんな時に見えた、道。
これは何?
嫌だ。
ここを進めば、きっと知らない場所にゆく。
動きたくない。行きたくない。
目を覆い、耳を塞ぎ、そして心を固く閉ざす。
この恋だけは失いたくないと、ただそれだけを願っていた。もう戻らない時の流れは、早くも次の運命の場所を探してる。
そして無理矢理、自分を何処かへ連れてゆく。
疲れた…
木魂のように、頭の中に響く言の葉。
現れた、何処かへと続く道。
進むためには一歩を前に出さねばならない。
足は動かない。
誰か、助けて。
背中を押して。
何処へいくのかは分からないけれど。
予感は、吉兆どちらの道だというだろう。
突き刺さった言葉の刃が、再び抜けるとは思えない。失ったものの大きさを、確かめるのは怖いから。
振り返ることもできず、過去に縛られて生きていくのも嫌だ。
助けて。
この道を歩く、強さを分けて。
この凍ってしまった心を温めて。そして突き刺さる、刃を熔かして。
【了】