ふるさとは遠きに在りて思うもの――
実質、故郷という場所に思いはない。
いい思い出など何もないし、残っている人も好きじゃない。
でも……
私には、ふるさとがある。
それは土地である故郷ではなく、心のふるさと。
いつも心が折れそうになると、蘇る想い。
支えられている、という想い。
それは心のふるさと――。
都会では隣人の顔すら覚えていない。家の前で会うからこそ挨拶ができても、別の場所で会ったら見覚えもない。
だからといって、田舎の人の顔を覚えているわけじゃない。田舎に住む人たちはお節介なだけだ。
小さな頃を知っているというだけで、『今』を知りたがり、襁褓を替えたことがあると言いながら、人の生活に土足で踏み込んでくる。
人の気持ちを考えず、心を傷つけても気づかない人たち。
そんな人たちを、私は好まない。
だから私は故郷に帰ることはない。
でも……
私には、ふるさとがある。
それは心のふるさと。
どんなに辛く苦しい時も、その人のいるところが私のふるさと。
いつも私を支えてくれる、その人がふるさと。
もう何年、会っていないだろう。
いつか再び会うことが叶ったら、私は何を告げるだろう。
貴方がいなければ生きてはこられなかったと、真実を告げるだろうか。それとも、冗談混じりに『久しぶり』とでも言うのだろうか。
一日も忘れたことなどないくせに、すっかり忘れていたように装って。
強がって、さも何でもないことのようにまた別れる。
次の約束などなく……
私には、ふるさとがある。
きっと死ぬまで誰にも明かさない、私だけの心のふるさとが――。