『愛しい想い』

vol.10

「そんなに見ないで」
 ガキじゃあるまいし、と思いながら、それでも顔に血が上ってくるのが分かる。
 恥じらい、という時代錯誤の言葉が、頭の中を右往左往しているのも分かる。
 私は、優一に悪く思われたくない。
 今まで、何も考えてなかった。

 私を好きだと言ったから、何を言っても当たり前。
 私を好きだと言ったから、何をしても当たり前。
 当たり前。
 それが我が儘だと気付いた時に、優一はいなくなっていた。

 我が儘って、可愛くない。
 可愛く思われたいという、多くの女の子たちの思いを馬鹿にしてた。
 どうして、馬鹿になんてしたんだろう。
 彼に誰よりも可愛く思われたいなんて、誰よりも可愛いじゃん。

 私は気持ちが可愛くない。心が汚い。
 私は、そんな女だったんだ。

 ふと気付くと、優一が、やっぱり優しく笑っている。
「何か、あった? 随分、しおらしくなっちゃったね」
 しおらしく?!
「それって、どんな意味?」
「マジで聞いてる?! 可愛くなっちゃったってこと。何か、あったの?」
「優一に振られた」

 今度は優一の顔が、あっけにとられたような感じに固まった。

「世の中には、タイミングってあるよね。運とかも。きっと、あの時、最悪のシナリオが用意されていたんだ」
 優一は静かに話した。
「それまで、あんな風に喧嘩したこともなかったのに、最初の喧嘩が別れになった。実は、別れる心算なんて全然無かった、と言ったら、魅子は信じてくれる?!」

  !?

 信じたいけど、信じられない。
 今のは、ホストのジョークなの・・。
 でも、ちゃんと話せって言われたから、ちゃんと聞こう。
「それは優一の言葉なの? それともホストとしての」
 その先を言うことは出来なかった。
 何故なら優一の唇が、私の口を塞いだから。

著作:紫草

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