vol.17
「絶対、許さない。俺は、そう言って魅子を突き放したよね」
優一は、私の手を握ったまま、視線は窓の外に向け静かに話し始めた――。
あの日。
私が、季節外れのセーターを着た優一を笑ってしまった日。優一は、確かにそう言い放ち背を向けた。
どこかで、私を置いていくわけがない、謝ってくるに違いない、と高をくくっていた。
しかし、その日を最後に連絡は途絶えた。絶望という言葉の本当の意味を、初めて知った気がした。
「あの日、家に帰ると親父が倒れていた。慌てて救急車を呼んで、お袋捜して、魅子に連絡を取れる状態ではなかった。生死の境を彷徨って、親父の意識が漸く戻ったのは入院から二週間経った後だった」
そこまで言って優一は私から離れ、窓際へと移動した。
きっと、そのときの気持ちが蘇ったんだろうな。ちょっと空気が重くなる。
「優一、無理して話すことないよ。やっぱり止めよ」
「否、平気だから。聞いて欲しい」
振り向いた優一が、夕陽を背負い綺麗に浮かび上がった。
やっぱり、かっこいいよなぁ。
こんな処にいる人じゃない。
お互い、もう自由にならなきゃね。
「その後、すぐに親父の親友という人がやって来て、店を担保に金を貸して欲しいって言ってきた。俺んち金貸しなんだ。看板は質屋だけど、お金も貸す。その時の親友って人も親父がいたら、きっと用立てたと思うけど、その時仕切っていたのはお袋だった。優しい人だけど厳しい人だから、条件を出した。店の経営を俺に任すこと、店舗の担保だけじゃ出せない額だと。それが、あの“candlelight”だよ」
洪水のように押し寄せる言葉に、私は付いていくだけで精一杯だった。質という言葉にも、驚きを隠せない。
優一が、絶対家へ連れて行ってくれなかったのは、そんな理由だったんだ。我が儘言ったね、私。他に女がいるのかと疑ったりもした。
自分が情けない。優一の言葉、何一つ、ちゃんと聞いていなかった。
ごめんね、ホントにごめん。
これじゃ、連絡できる筈ないね。
ちょうど、別れ話のような喧嘩をしたところだった。優一が私を遠ざけるには、絶好のタイミングだったのね。
「いろいろ話をして、結局、俺は店に入ることになった。余程の客でないと店には出なかったけれど、魅子には話せなかった」
優一が、椅子に戻ってきた。
その瞳は、少しだけ潤んでいる。