『愛しい想い』

vol.27

「久し振り」
 深夜の待合室は、怪談話にはカッコウの場所だった。
 在り得ないことの連続は、私を一人のお莫迦なオバサンと化した。
「あなた、誰?」
 やっと言葉が戻った時、私たちは1時間もの時間をただ黙って過ごした後だった。

「北野優一。魅子の婚約者だよ」
 …
 …
 …
 …
 …
「優一…、ずるい。そんな言い方するなんて」
 私は、心の奥に無理矢理押し込めてきた、優一という人間への思い出と執着と、そして愛情を一気に放出した。
 涙は、きっと涸れない。

 私を婚約者なんて言うなんて、冗談でも許さない。
 優一が結婚したことを、私が知らないとでも思っているの。
 私は祝ってなんか、いないわ。
 相手の人が、優一の隣に並ぶ女の人が憎くて憎くて堪らなかった。

 私の中に押し込めていた、最后の嫉妬が醜く吹き出してきた。

 きっと一番逢いたかった人。
 でも、一番逢いたくなかった人。
 隣に入った彼女を母と呼んだ。
 なら、いつか優一の奥さんも来るでしょう。
 私は、これ以上、大人の仮面を被って、鉄火面のように取り繕うことなんかできない。一度、溢れてしまった想いは、自分ではどうすることもできない。

「優一」
「ん!?」
「私を殺して」

「いいよ」
 優一の瞳に、迷いはなかった。

著作:紫草

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