『愛しい想い』最終話

vol.30

「ただいま〜」
 優一の声がリビングにまで届く。ソファに身を沈めたまま、私も優一に届くように言う。
「お帰りなさい」
 部屋に入ってくると、いつものように抱きしめてくれて、いつもようにKissしてくれる。そして私をベッドへと運ぶ。
 それが、帰宅した優一の仕事。そんな生活を、もう三年以上続けてきた。
 ホストクラブを処分して、お金に換えた。父の保険金もある。だから、お金には困らないと言いながら、今は咲子の出したホストクラブの顧問会計士を務めている。
 母も仕事をやめればいいのに、邪魔はできないと隣にマンションを借りて移り、結局仕事も続けている。
 何もしていないのは、私だけだと思う。
 人の手がなければ、生きてゆけない。
 でも優一は、それでいいと言う。
 だから、私は結婚した。
 限られた命の最后に、最后の我が儘を聞いてほしくて。

 優一が私にくれたもの。大きな大きな愛情。私は優一に出逢えて、本当に大切なものを見つけた。
 そして、優一が私に教えてくれた、愛しい想い。

 たぶん、私は次の誕生日を迎えることは出来ないけれど、それでも幸せだ。
 愛しい想いを抱いたままで、私は今を生きているから。
 誰のためでもない。
 私と優一のためだけに、生きているから。
 優一の、ありったけの愛をもらって生きているから。
 そして、本当にありがとう。
 私の王子様――。


 夜が明ける。
 少しずつ明るくなる、空。
 カーテンを抜け、光届く朝。

 その瞬間――。

 眠れなかった・・
 ではなく、夜明けの空気に、隣で眠る優一の寝顔に、恋をした。

 冷たく、気高い、どこか張り詰めた空間。
 瞳閉じて、君想う。
 肌を包み込んでくれる気の流れ、ひんやりと。

 君は今、ワタシのためにだけ存在する。
【了】

著作:紫草


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