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Penguin's Cafe
『幸せなお客様』U

 ♪カラ〜ン
 耳に心地好い、いつも聞く鈴の音が店内に響いた。
「此処で二次会をやることになるとは、ね…」

 オーナーが様子を見るという口実で、手伝いに来てくれたとマスターは言った。
 こちらの我が儘を聞いてもらったのに、一番喜んだのはオーナーかもしれないとも言っていた。
 見れば、誰よりも甲斐甲斐しく動き回っている。
「オーナーさん。今日は我が儘を聞いていただいて、ありがとうございました」
 そう言って頭を下げようとすると、右手をひらひらと振られて、止めて頂戴と言われてしまう。
「でも…」

 当初の予定招待客十人は軽く数を超し、結局二十人の招待客を迎えることになってしまった。その時、天気がよければオープンカフェを設えればいいと言ってくれたのはオーナーさんだったと聞く。
 他にも、いろいろと融通してくれた。

「私ね。実家の近くに、人前結婚式をしてる喫茶店を知ってるの。お店の前には広い庭が作ってあって四季の花や木々があった。それにライトアップして、当日は駐車場も使ってゲートを作るの」
 そんな思い出を懐かしそうに話すオーナーの手は、休むことなく食器を洗っている。
「ここには二台分の駐車場しかないけれど、テーブルセットを二つくらいなら置けるじゃない。そうやって、ここを思い出の場所に選んでくれたお客様に、少しでも喜んでもらいたいだけ。それはマスターも同じ気持ちだから。だから気にしないで。私たちがやるって決めて楽しんでる。ほら、花嫁さんは笑ってて」
 今日が晴れて本当によかったと、心から言ってくれているのが分かる。

 午後のお茶の時間を使った、アフタヌーンパーティ。
 ケーキバイキングと、お茶と珈琲のセット。そしてサンドウィッチだけのメニュー。それでも充分だった。
 なのに、この人たちは、お持ち帰り用の小さなホールケーキまで用意してくれた。

 親の手前、いろいろやる羽目になった結婚式。会社の付き合いを考えて、やらなければならない三次会。
 でも、きっと私は、このPenguin's Cafeでのパーティが一番心に残ると思う。

「どこに消えたかと思ったら。相変わらずマスターのこと、お気に入りなんだから。主役がいなくちゃ集まってくれた人に失礼だろ」
 そう言いながら、タイを緩めた彼がやってきた。
「そういう自分も、何か飲みたいんじゃない!?」
「当たり。マスター、美味しいエスプレッソ、淹れてくれる!?」
 いつものように、かしこまりましたという言葉を聞くと安心する。
 今日のマスターはいつもの白いシャツだけではなく、黒いベストとエプロンをして、お店が違えばその姿は、まるでギャルソンのよう。
 そうしていると思っていたよりも、ずっと若いのに気付いた。

「ねえ、マスターって本当は年いくつ?」
 彼も同じことを感じたらしく、カウンター席に座りこんで話しかけている。
「個人情報ですので、秘密です」
 マスターはそんな質問には免疫ができているようで、悠々とデミタスカップにエスプレッソを淹れ、目の前に置いてくれた。
 やっぱりね。そんなことだと思った。
 でも、ひとつだけ分かったことがある。
「じゃ、マスターの年齢を聞きだすことに成功した人が本命ね!」

 私のそんな言葉に大量の瞬きと共に絶句しているマスターを、思い切り笑い飛ばしてくれたオーナーが、涙を浮かべんばかりに笑い続けている。どうやらツボに嵌ったらしい。
「なる程。お店では年齢の話は禁句ということにしましょうか」
 笑い続けるオーナーを尻目に、いつものポーカーフェイスを取り戻したマスターが誤魔化した。

 でも、もう遅い。
 そんな約束事なんて、すっかり忘れてしまうのが恋でしょう。
 いつか、マスターの特別な人に会えるといいなと思いながら、私たちは自分たちを待ってくれる人の輪の中に戻っていった――。
【了】

著作:紫草

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