小さな街灯。
誰もいない公園を、右手に見ながら行き過ぎる。
彼は黙って歩くだけ。
公園のことなど気付かぬように。私のことなど、気付かぬように。
私には、その歩みは速過ぎる。
(今日の映画、楽しかったね)
そう声を掛けたいのに、ついて行くだけで精一杯。
何を考えているの?
私のこと、忘れたの?
もう駄目、もう追いつけない。
彼の背中を追うのを止めた。
ふたりの距離が離れてゆく、どんどん、どんどん…
私は、さっきの公園に戻ってみた。
夜の公園。
入り口に小さな街灯がひとつあるだけ。
いくつか置いてある、ベンチのひとつへと腰をおろす。
今日は一ヶ月振りのデートだったのに。映画も楽しかったのに。
どうして最后は、こうなるの?
いつから不機嫌だったのだろう。
そんな素振りはなかったのに。
ぼんやりと、ただ、ぼんやりと時が流れてゆく。
私のいないこと、まだ気付いていないのか。
それとも、もう帰ってしまったのか。
私の携帯は静かなままだ。
涙が頬を伝って、流れた――。
はっと気付くと、目の前に彼がいた。
驚きすぎて、言葉が出ない。
叱られる。怒鳴られる。
思わず、ギュっと瞳を閉じる。
でも、彼は何も云わない。
近くにいるのは分かるけど、瞳を開く勇気はない。
両手で顔を覆っていると、彼が、その手に手を掛ける。
ゆっくりと瞳を開く。
彼は優しく微笑んでいた。
かけていた眼鏡を外し、胸ポケットに挿す。
そして、ゆっくりと、ゆっくりと近づいてくる、彼の顔・・
私は……、そっと瞳を閉じた――。
【了】