『相棒』

 彼と初めて会ったのは、小学校の五年生。
 その後、高校までを同じ学び舎に通い、友として付き合った。
 いつしか芽生えた恋心。
 でも告白なんてしちゃったら、話すこともできなくなるもの。
 絶対、言わないと決めていた。だから高校の時に彼女ができても、相談にのったりしてたっけ。
 クラス中に、相棒と呼ばれてた。
 色っぽい話のない二人。男同士のノリで付き合えるヤツ。

 それから数年――。再会した彼は、私には眩し過ぎた。
 一足早く社会人となっていた私に、
「元気!?」
 とだけ。
 いつも、こんな風に声をかけてくれる人だった。
 何だか、昔に戻ったようで思わず涙が浮かんできた。
 そこに突然の雷鳴、私たちは近くの喫茶店に転がりこんだ。

 子供の頃の、純粋な気持ちを知っている彼。
 昔の私を知る彼。
 思い出話は尽きることなく、彼の通う大学の楽しい話にも花が開く。

 楽しそう・・。
 私とは違う。彼は、変わってない。

 そう思うと、此処に一緒にいることが罪なようにも思えてくる。
 何故って、その直前、私は不埒な恋を無くしてた。そんな私に、彼は昔と変わらずに声をかけてくれる。
 嬉しくて、でも、どこか後ろめたい。

 そして彼は、こう言った。
「大人の恋をしよう」
 と。

 私が場所柄も弁えず、号泣したことは言うまでもない。
 しかし私に、その言葉を受ける資格はない。
 いつか知られるくらいなら、今、ここで話してしまおうと覚悟を決めた時だった。

「知ってる。お前が無理矢理、愛人させられてたこと。でも、もう終わったんだろ。なら、いいじゃん」
 彼は静かに笑った。

 知ってる?!
 愛人だったこと。
 そうなんだ…。知って…たんだ。

 何だか、気が抜けてしまった。
 店を出て、私の乗ってきた車に乗り込む彼。
「今度は、俺がヒモになってやる。だから、あんなこと止めろよな」
「ヒモ?!」
 私は、助手席の彼を見た。
「だって俺、まだ稼ぎないもん。立派なヒモだろ」
 そして最后に、彼はこう言った。

 初めて会った五年の時に、恋をした。
 高校で、お前に彼氏が出来た時、漸く、ずっと好きだったことに気が付いた。遅かったけど。
 卒業して逢えなくなって、初めて逢えないことが淋しい、って感じてた。
 だから絶対告ってやるって決めたのに、社長の愛人してるって聞かされて・・。もう手の届かない人になったのかと思ってた。
 でも、その社長が病気になって別れたらしいって聞いたんだ。
 だから、次に何処かで逢えたら、今度こそ告るって決めてた。
 腐れ縁じゃなくて、赤い糸があるって信じたかったから、だから電話とか何もしなかった。
 よかったよ、間に合う内に逢えて…

 …と。
「なぁ。俺と大人の恋、しようぜ――」
【了】

著作:紫草

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