♪う〜さぎ うさぎ 何見て 跳ねる♪
♪十五夜お月さま 見て 跳ね〜る♪
誰もいなくなった、夜の公園に月子は足を踏み入れた。
昼間には、きっと多くの子供等が騒がしい声を立てていたことだろう。
一歩、また一歩と、歩いてゆく。
さく、さく、と砂の音がする。
静かな夜。
十三夜。
殆ど、まん丸になった月が、ぽっかりと空に浮かんでいる。
綺麗…
その時、キィっと何かが軋む音がした。
思わず音のした方に振り返る。
そこには、ブランコに座る影があった。
嘘…
こんなの嘘…
絶対、違う筈なのに…、思わず声をかけていた。
「どうして・・、こんな処にいるの?」
「待ってた」
影は、そう答えた。
「月子。約束、憶えてる?」
勿論。
でも、すぐに答えることは出来なかった。目一杯、驚いているから。
何故、そこに貴方がいるの。そのシルエットは貴方でしょ。間違う筈なんてないもの。なら、どうして此処にいるの。
貴方は私を一人残し、外国へと旅立った。今から七年前。
そして飛行機が落ちたのだ。
私は、貴方の、お葬式に出たのよ。
これは何?!
――三年たって研究が終わったら、かぐや姫を迎えに来る――
と言った貴方。
四日後が、その約束の日。三年は過ぎ四年も過ぎ、とうとう七年目を迎える私の誕生日。天気予報の通りなら、今年は満月が愛でられる。
「月子。男、いるの?!」
影は、ブランコを揺らし始めた。
「莫迦ね…。そんなの、いるわけないじゃない。私はずっと、ずっと泣いて暮らした。そんな陰気な女に、新しい男が出来ると思う!?」
泪が溢れ始めた。
本当に、貴方なの…。
少し似ている誰かが、悪ふざけをしているのかもしれない。
ふと、そんなことを思った。
すると影は、ブランコから立ち上がり近づいてくる。
次第に、その顔がはっきりと見えてきて…
「ああ〜」
何て事!
偽者なんて思って、ごめんなさい。よく生きていたわね。
でも、それなら何故、今日まで連絡をくれなかったの?
声にならない声が洩れた。
あんなに綺麗だった彼の顔は、やけどで覆われていたから。それでも生きていたのなら・・。
「一週間前まで意識がなかったんだ。七年間、病院の研究施設にいた。動物実験だな。もう助からないと判断され、様々な薬を試された。ちょうどテロの事件があって、あの飛行機に乗っていたことにされた。本当は、実験ミスで爆発事件が起こり、巻き添えをくった」
そんな・・、酷い。
「仕方ない。研究には実験は必要だ。覚醒した時に真実を聞かされ、死人だから戻れないと言われたよ」
そうよ。戸籍では死んだ人よ。どうして帰国できたの。
「今の僕は日系のアメリカ人だ。むこうで戸籍を作ってきた」
何だか、本当のことには思えなくて、私は呆けてしまった。
じゃあ、あの飛行機の搭乗名簿にあった名は偽装だというの。
両親を、あんなに悲しませて、その上、またアメリカ人になって生きてましたと伝えるというの?!
「違う。親には会えない。もう二度と会わないよ。でも」
「でも、何だと云うの?」
「月子だけは、忘れられなかった」
・・・
もう、いいや。
何を捨てることになっても。生きる屍となって皆に迷惑をかけるより、私は彼と一緒がいい。
そして全てを託すべく、私は彼の胸へと飛び込んでいった。
【了】