『契り、そして』

 突然決まった話でも、ずっと昔から決めていた。
 いつか三の姫と一緒になろうと。
 初めて逢ったのは、姫が生まれて一月という頃だったっけ。
 すでに姉二人がいるところに生まれてきた姫は、皆から忘れられているような存在だった。当然か。男児を待望する一族は、姫がどんなに可愛くとも誰も見向きもしなかった。
 そんな姫が不憫で、大人の目を盗んでよく忍んできた。

 小さな頃は、独り占めしている玩具のような心算だったんだろうな。
 でも、そのうち玩具ではなくなった。
 大人になると、姫には逢えなくなる。
 侍女に、そう云われて初めて気付いた。いつの間にか、姫を慕うようになっていたことに。
 それまで見て見ぬ振りの大人達が、急に煩くなったのは一の姫の婚礼があったからだった。
 暫くして、二の姫にも縁談があると聞いた。まさか、その相手が自分だとは思わなかったが。
 姫の父上に正式に誘いを受け、三の姫なら婿の話を受けると告げた。
 あれから一年(ひととせ)が過ぎた。

 幼さを残した三の姫は、さなぎが蝶になるが如く美しい姫になった。
 いろいろ騒がしいこともあったが、無事に済んで今が在る――。
 そして、その姫は、間もなく母になろうとしている…

「おめでとう存じます。皇子様、ご誕生にござります」
【了】

著作:紫草

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