第四話 いにしえ

 何かのジョークにあったよね。
 ここは何処、私は誰ってやつ。
 冗談じゃないよ。正に、それだわ。
 此処は何処よ。
 山…だよね。とりあえず、分かるのは。
 アスファルトはなくて、土ばかり。
 見渡す限り電柱もないから、電気の通っていない場所。
 この分じゃ、ガスも水道もありませんよって云われそう。
 ガサッ
 何? 何の音?
 振り返って音のした方を凝視するも、何もない。
 気味が悪かった。
 兎も角、座り込んでいる場合じゃない。
 私は、何処へ行く当てもないまま立ち上がり歩き出した。
 試験最終日。教科書、辞書、ルーズリーフ、そして資料と、ありとあらゆる物を持ち帰る心算でバッグに詰め込んでいた。
(お、重い…)

 ガサッ

 再び、葉の動く音。
「誰?」
 その時、丸っこい生き物が走り抜けていった。
「今の・・、狸?」
 信じられない。私、今、何処にいるのよ。
 その時だった。
「誰だ」
 心臓が止まるかと思った、後ろから、そう声をかけられた時は。私は、ゆっくりと振り返る。
 そして今度こそ、本当に心臓が止まったような錯覚を覚えた――。
 貴男は誰、と私こそが聞きたかった。
「誰だ。また、落ちてきた者か」
「えっ?」
 今、何て云ったの。私の中で何かがうごめいている。
 落ちてきたって?
 誰が?
 何処に?
 此処は、何処?
 そして何より貴男の、その服は何?
 それ、着物よね。着物を普段着にする処・・。
 時代劇に出てくる、汚い身なりの男が一人。何とかって俳優に似てる。イメージは年をとった反町かな。
 でもタイプじゃない。只のおじさんともいう。どう見ても貴男、普通に見えないよ。
 私の頭がフル稼働しても、何の答えも得られない。
 駄目だ。
 分からない。
「文長。何か、あったか?」
 ガサッと、三度(みたび)音がして、またしても着物の男が現れた。
 も〜嫌!!

著作:紫草

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