『糸車〜昭和を生きた恋人たち〜弐』

〜からから、からから、何処かで廻る糸車〜

 今も昔も変わらない、とは、とかく、よく聞く話ではあるが・・・

 竹内家。
 主(あるじ)を大黒柱に、母親、妻、三人の男の子。お国に褒められる典型の家庭である。そこに母親の遠縁から、悠茄が引き取られることとなり、小学校へも通わせてもらった。名目はあくまで、花嫁修業。
 しかし、実態は“お手伝いさん”という立場だった。まだまだ、家の格を重んずる時代。悠茄の存在は、あってないようなものだった。
 その彼女が一躍脚光を浴びたのは、成績優秀でないと入学できない、と云われた有名女学校への進学が決まったからである。成績の優秀だった達也、柾親と比べても引けを取らず、それを知った主が悠茄を女学校へと進学させたのだ。何も知らない周囲の人間は、長男の許嫁かと噂し合ったが、結局真相は闇の中。
 そのまま何事もなく過ぎてゆけば、いつかは悠茄も本物の許嫁になったのだろうか、長男ではなく、達也の許嫁に。

 その悠茄が身籠った。
 達也の子だった。
 しかし主の怒りに触れ、入籍も出来ないまま、悠茄は妻の里へ移り、出産を迎えることとなった。

★駆けつけた 君の横顔 嬉しくて
ややを抱く腕 思わず 緩む★ ―翆童―

 この頃、新婚気分を満喫していた柾親と夏子。女の子誕生の知らせは、達也の口から柾親へ、そして夏子へと運ばれた。

◆生まれしと 告げ来る人の まな尻は
優しく笑みて 麗らなり◆ ―珠瞳―

“やこ”と名付けた二人の吾子は、そのまま妻の里、中川家へと養子に出された。

著作:紫草


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