〜からから、からから、何処かで廻る糸車〜
昭和という時代は、大きな歴史の転換期。
戦争という荒波は、世界を巻き込み、歴史を作る。
何故、戦争はあるのだろう…
みなの思いは同じ。
平和な世の中に、なりますように。
兵隊さんの思いも同じ。
家族が幸せに暮らせるように。
では、何の為の戦争か?!
日々、過ぎてゆく中に、その答えは見つからなかった。
――松岡家。
柾親に、召集令状が届けられた。
小さな、赤い紙。
まだ、小さな娘にも、本能が危険を知らせる。
いつもは父親さえいたら、機嫌のいい娘も、この日ばかりは愚図り続けた。
そして、夏子の胸に最初に浮かんだのは・・、
(あんなことを思ったからだ…)
あんなこと――
『召集令状がくれば、陰口も云われない』
(!!)
咄嗟に否定する心。
何故、そんなことを思ってしまったのか。
それは、あからさまな嫌がらせ。いつまでも来ない赤紙に、隣組の噂は広がり、いつしか、
(どうして、赤紙が来ないんだ。裏で手でも廻しているんじゃなかろうか)
と噂されるようになる。
夏子は、心身共に疲れていた。
しかし、赤紙は届けられた。隣組が喜んだのは云うまでもない。お国のために。その言葉を背負い、兵士は日々旅立ってゆく――
(罰が当たった)
と嘆く夏子に、幸美だけが残された。
時に、昭和十九年七月のことである。
――思い出すのは、幸せな日々。
友人を交えてだったり二人きりだったり、様々な場面ではあったが、いつも柾親の視線を感じていた。
娘の幸美を産むことも、二人の距離を恋人から変えるものではなかった。
幸せなふたり。
◆幼子を 肩車して 駆け回る
かもいにぶつけ いつも泣かせて◆ ―珠瞳―
――そして、たった一人の愛しい我が娘、幸美。
大好きな“おとうさん”
娘なりに愛した“父”
まだまだ幼い幸美の胸に、何が去来したのだろう。
ひとりきりでの子育ては、減り始めた食料と共に、夏子の心を追い詰めてゆく。
◆蝉時雨 父はいづこと 泣く我が子
共に泣きたし 広き家にて◆ ―珠瞳―
柾親が出征した時、悠茄と達也は東京には居なかった。
そのことも、この二組の恋人達の運命を、大きくふたつに分けてゆく要因になっていった――。