『糸車〜昭和を生きた恋人たち〜五』 最終回

 戦後60年。
 多くの人の記憶から戦争が歴史の一頁になってゆく。
 日本を守る為に散らせた、多くの命の犠牲の上に現代(いま)がある。

〜からから、からから、何処かで廻る糸車〜

 柾親にとって、可愛い可愛い一人娘“幸美”
「女の子は美しくなくちゃ」
 と、名付けた我が子。
 片時も離れない幸美と、一緒に遊ぶ倖せは、長く続くことはなかった。

 赤紙は、柾親を戦地へと向かわせ、その命を奪った。

◆一枚の 紙片となりし 我が夫(つま)を
抱きしめる夜 梅香る中◆ ―珠瞳―

◆主(あるじ)なき 雛は未(いま)だ 箱の中
寂しく揺れる 紅(べに)の花びら◆ ―珠瞳―

 独り。
 たった独り残された夏子は、昭和20年3月東京を襲った大空襲の最中、家に居た。
 独り。
 天からの、柾親の迎えに従って、業火と共に果てた。

 その死が、たとえ自らの手に依るものであろうとも、きっと彼女の命は、この日に尽きた。
 自らの時間を、その手に委ねることが、柾親に逢える一番の早道だと信じて…。

 遠き地。
 疎開先に、心の病を患った悠茄と、友を案じる達也には何も知らされることはなかった――。
 そして訪れる終戦と、それぞれの別れ。

★戀人よ 笑った顔だけ 憶えてね
声と温もり 先逝くけれど★ ―翆童―

★運命の 何処かで廻る 糸車
生まれ変わりて また戀をする★ ―翆童―

 昭和27年4月9日 悠茄 享年37歳。
 昭和30年4月9日 達也 享年41歳。

 四色の糸が鮮やかに紡ぎ出す、彼等の“糸車”は止まった。
 四人の魂が、再び巡り逢う日は来るのだろうか。
 戦争のない世の中で、未来にいっぱい夢を抱いて、そして恋をする日が・・。

 そう、幸せな頃を想い、みな陽だまりに包まれて――。

◆陽だまりに 包まれしごと 日々過ごす
春日(はるひ)の中の 二人の姿◆ ―珠瞳―

★陽だまりに 集(つど)う君らを 戀慕ふ
秋の櫻の たゆとうなかに★ ―翆童―

〜完〜

著作:紫草


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