「どうしたら、俺のものになるんだ!」
俊の言葉が地下街に響いた。よく通る、少し高めの綺麗な声。
私たちは、久し振りに名駅地下街を歩いていた。私が返事をしないでいると、俊がごめんと謝った。
「お袋に叱られる。絶対に迷惑かけない約束だったのに」
俊は、あれから、たびたびメールをしてくるようになった。ただ時間帯が余りに違うので電話をすることは殆どなく、今日は数ヶ月振りの再会だ。服は秋を通り越し冬服の季節になっていた。
本日。
ホストクラブが数店、共同開催をする“クリスマス会”に呼ばれたのだ。
ホスト遊びはお金がないと続かない。
でも、クリスマスの特別な日のクラブにも行ってみたい。世の大半の主婦は本来のクリスマスは忙しく、とても自分の為に時間を使うどころではないだろう。そんな主婦たちを集めて格安のパーティを開くことにしたのだった。
私は興味がなかったので、どんなに俊と親しくなっても店には絶対に行かない、と公言してきた。当然、どんな形のパーティであっても、その気持ちは変わらない。
ところが、ここで、またしても過去の例のバイトが災いをもたらすのだ。
何と!驚いたことに、俊の勤めるクラブのオーナーは、当時バイトしていた喫茶店の店長だった。いろいろ説得されたわけではない。ただ付き合いというものを考えた時、結婚式場の披露宴会場を借り、看板は「クリスマスパーティ」とだけ、行かないわけにはいかなかった。
有り難かったのは、大崎さん(俊の母親)が、絶対に駄目だ、と云ってくれたこと。お蔭で、特別待遇での参加を許可された。とはいっても、ヘルプは要らないとか、食事も要らないとか、あちらにしてみれば損をする話ではないので許可されたのかもしれないが。会費も俊が払ってくれるという。
そして、最后に俊の独占権とやらを与えられた。(んなもん、要らんわ)とは云えなかった私である。
「私は誰のものでもないよ」
落ち着いた頃を見計らい、俊に声を掛ける。
「分かってる。冬子さんは冬子さん。ちゃんと分かってるから・・」
「なら、会場へ行こ。その為に出て来たのだから。子の帰りがあるから、お開きまではいられないし」
そういう私の顔を覗き込むように、俊が見る。
何?!
「ほら、な」
「何よ」
「冬子にとって、子供が世界の全てだってこと」
俊が、そう云って笑った。いい顔の男は、どんなへちゃむくれの表情をしても美しい。悔しいが、確かに連れて歩くには最高の男なのであった。
「今日だけは独占させてね、冬子さん」
「無理しなくていいよ。お客様、沢山来るのでしょう」
私が、そう云い終わらない内に、今度は声を立て笑い出す。
全く、今日の君は可笑しいよ。
「独占権って、きっと、俺が冬子を独占する権利の間違いだと思う」
んな莫迦な。
「さて、寄りたい処がある。来て」
私は返事をする前に手を引っ張られるようにして、走り出す。
「何処行くのぉ?!」
「そんな普段着で来る人なんか、いないの。おめかししなきゃね」
まぁ、失礼な。
いつも穿かないロングスカート穿いて来たのに。
でも、花嫁衣裳の中から濃紫色のロングドレスを出され、スカートこっち、と云われた時は嬉々として穿き替えた私である。
ロングストレートのかつらも被り、俊にメイクをしてもらう。
誰が見ても、私だなんて気付く人はいないだろう。
大変身だぁ!
ちょっと喜んだ自分が恥ずかしかったのも、事実である。
さて、クリスマスパーティ。何が待っているのでしょうか。
店のナンバー1になっちゃった俊の独り占め、絶対、血の雨が降ると思うぞ――。