『あきらZ』

「いつか、俺のものになってくれる?!」

 俊が、そう云ってKissをした――。

 ひとしきり泣いた後、私達はマスターの云う通り、その場を離れ駅裏のビジネスホテルへとやって来た。
 とにかく臭かったのだ。俊が折角買ってくれたブラウスも、そのまま着てしまったら同じこと。そこでシャワーを浴びる為、ホテルへの移動となったのだった。

 シャワーを浴びベッドへと腰を下ろす。俊が濡れた髪をタオルで拭いてくれて、そのまま私を押し倒した。

 優しい気持ちのこもったKiss。
 払いのけることは・・、出来なかった――。

「どうして私に、こだわるの?」
「分かんない。でも今まで寄ってくる女は多かったけど、自分で好きになった人いなかったと思う。冬子さんは無くしたら、きっと後悔する。それは分かるもん」

 俊は、そう云う。
 でも私に、そんな価値があるとは思えないけど・・。

「そうね。いつか…なら。でもその前に、俊が恋人作る努力を怠らないこと、ってのが条件かな」
「何だ、それ」
 俊は云いながら離れてゆく。
「ごめんね。でも私は、二人の人を愛せない」

 初めて俊に向かって答えを出した。
 いい男、連れて歩くには最高の。
 でも、俊が望むものと、私が望むものは違う。不倫はしたくないから。

「分かった。いつか、だよ」
「うん」
 私は品のいい、薄茶のブラウスに袖を通した。

 ホントだ。サイズ、ぴったり。

「有難う。私、そろそろ帰らなきゃ」
「分かってる。子供が帰ってくるんだろ」
「ご名答」

 俊は黙って支度をし、私も倣って身支度を整えた。
 扉の前に立ち、俊が云う。
「冬子。俺のことって、どんな対象かな」
「年下の男の子」
 私は、昔聞いたアイドルの曲名を引用して答えておいた――。
 嘘ばっか・・。

著作:紫草

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