『海豚にのりたい』

その壱「龍神の章」

6

病室
「加奈子ちゃん、何処に行ってたの?」

 竜崎が病室に戻ると、横になって寝息をたてている加奈子に母親が声をかけていた。
「高坂さん、ちょっとすみません」
 無理矢理のように間に入ると、心電図や脈の様子を観察する。付き添っていた看護師からも簡単な説明を受け、それを確認する限り変わったところはないようだった。
 では、加奈子の姿は何故消えていたのだろう。
「高坂さん。加奈子ちゃんは眠っています。暫く様子を見ましょう」
 竜崎は佐伯に後を託し病室を出る。廊下から、もう一度加奈子を見た。
「一体どうやって消えたんだ‥」

 竜崎はまたしても医療の限界を越えた“何か”にぶつかったことを感じていた。

著作:紫草



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