『海豚にのりたい』

その弐「カイザの章」

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ドクター
 あの龍、カイザとの出会いから優作の人生は、変わった。

 もともと帰宅したくないばかりに、学校に残って勉強ばかりをしていたため成績は抜群に良かった。定時制から編入試験を受け全日制の普通科へと替わった。そして大学へ行きたいと告げたのだ。母親の怒りは、この時ばかりは祖母と意見が合ったらしく、二人で進学に反対した。
 それでも構わなかった。
 一生分の怒りをぶつけられ、一生分の恥もかいた。もう外聞などどうでもよくなった。
 結局、あちらこちらのツテを頼り、使えるだけのコネを使い、優作は奨学生として大学に入学が許された。入った学部が医学部だったため、母親はお金のことを心配し入学金を納めることなく蒸発した。その後どうしているか、捜したことはない。母親が訪ねてきたこともない。とは言っても大学卒業時に家も土地も、全てを売ってしまったので捜しようがないのかもしれないが。祖母との嫁姑戦争もこれで漸く終わった。
 祖母がどんなに喜んだことか、と思いきや天敵を失ったことで気力が無くなったのか、母親がいなくなってすぐに体を壊して入院し、ニケ月後、祖母もあっけなく逝った。土地と保険金と、そして自由を遺してくれた。

 こうして優作は医学を修め三年間は大学病院に残り、その後、海の見えるホスピスへと赴任した──。
 カイザとの約束を果たすために・・。

著作:紫草



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