『祭囃子』
12
こちらからの申し出を快諾され、俺たちは駅前のホテルのロビーで会うことになった。約束の時間には三十分以上あるというのに彼はすでにそこにいた。
まだいる筈がないと思っていたので誰にも声を掛けずに空いているソファを探していると、一人の男が弾かれたように立ち上がった。
そして俺の所までやってくると、
「村崎光さんですか?」
と尋ねられ、肯定すると、
「はじめまして。宮子の父の山科雪彦(やましなゆきひこ)といいます」
と彼ははっきりと名乗った。夕子の云うようにこの人も親なんだとこの時思った。
「場所を変えますか。もしここでよければ座りましょう」
イメージとは恐ろしい。こんな風に声を掛ける人だとは思っていなかったから返事に困ってしまう。
「ここで構いません」
と答えると比較的奥にあるソファに移動し、
「どうぞ」
と椅子を勧められる。俺は礼を云い先にそこに座ることにした。