『祭囃子』

第一章「冬祭り」

1

 どん!

 とある町の交差点。
 信号待ちをしている時、私は左側から(誰かにぶつかられた)と感じた。本能的にそちらを向くと、その“誰か”が私に向かい倒れこんでくる。反射的にその人を受け止め一緒にドサッと倒れこんだ。
(痛ぁ〜い)
 その日の私の服装は下ろしたての真っ白なパンツスーツだった。それが見る間に真っ赤に染まってゆく。それは倒れた青年の鼻血に因るものだった。
(何?!)
 周りの女性たちは悲鳴と共に去っていく。そこかしこに集まり出した野次馬たちは、こそこそと内緒話に花が咲き始めた。
(全く役に立たない奴らだわ)
 私は近くいた男性を呼びつけ、個人的に救急車の手配を頼んだ。

 意識を失ったままの青年は非常に美しい顔立ちをしており、私は思わず職業意識を駆り立てられていた。
(う〜ん。ショウウィンドウに飾りたい‥)
 とは云っても右腕の傷と鼻血は一向に止まる気配を見せず、私は持っていたハンカチと鼻紙、そして真っ白なブレザー総動員して止血に努めたが、それでもブレザーは血で真っ赤に染まっていった。

 やがて救急車が到着し隊員が矢継ぎ早に質問をしてくるが、私は何も知らなかった。少なくともこの時の私が知っている事は、彼が年下の男だということだけだった‥。
 六月の梅雨の合間に見せた、快晴の日の昼下がり。町は、仕事中の人間でごったがえしていた。

 

著作:紫草

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