『祭囃子』

第三章「春祭り」

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──苦しい、苦しい、苦しい。母さんに愛されるのが苦しい。
──誰か、助けて、助けて、助けて。誰でもいい。僕を助けて。
──僕は父さんじゃない。代わりじゃない。僕の知ってる母さんは、何処にいるの。

──腐ってる。僕は腐ってる。もう生きていたくない。僕は腐ってる。
──母さんに犯された。
──母さんに子供が出来た。僕の子だったら、どうしよう。

──父さんのこの家に、この手紙を隠す。親切にしてくれた小父さんたちには悪いけど、ここは父さんの家だと今も思ってるから。
──父さん、僕を守って。
──誰か、僕を殺して。死ぬ勇気も持てない弱虫の僕を殺して。お願い。

──生まれてくる子が、どうか山科の義父の子でありますように。

著作:紫草

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