『祭囃子』

第三章「春祭り」

23

 何か、とんでもないことを云われたのは分かった。
 でも何を云われたのか、すぐには理解出来なかった。
 俺が何だって?!

 おじちゃんは、いつかこんな日が来ると思っていた、と話し始めた。
「丁度、二人に血縁関係があると判った頃、宮子ちゃんが妊娠してると判ったんだ。最初は従兄妹同士でも結婚出来るから大丈夫でしょうと山科さんが云い出して。結構安易に考えてた――」
 でもやっぱり知らないのは不味いだろということになって、法律に詳しい奴なんか誰もいなかったから光と俺とで図書館行って調べたんだ。
 そしたら結婚出来るのは三等親以上。叔母と甥は二等親で駄目だということが判った。それが判って別れるしかないって時になって今度は妊娠してることが判った。
 すると次は宮子ちゃんが一人で産むと云ってきかなかった。誰も知らない処に行って一人で産んで育てるって。誰にも迷惑かけないからって。夕子がしたことをするだけだと云って譲らなかった。
「で、山科さんと夕子とそして光とで説得した。特に夕子はどれだけ大変なことかを時間をかけて説明した。でも結局駄目だった。直前に家出騒ぎを起こしていた宮子ちゃんの言葉を全くのはったりとも云えなくて、結局は光が折れて結婚すると云い出した」
 話している間中、おじちゃんは当時にトリップしたかのように表情を歪ませたままだった。

 全部初耳だった。それじゃ二人は何もかも解ってて夫婦をしてたってことじゃないか。どういう神経してんだよ。
「怒るな。あの二人はあれから夫婦としては暮らしていないよ。解ってやってくれ。光はそういう男だ。宮子ちゃんも了承した。二人は宝雪の親であっても、二度と恋人には戻らないという約束で一緒になったんだ」

 嘘だ。
 そんなこと俺は知らない。それじゃ俺が二人の人生を台無しにした張本人ってことになる。
「俺を始末すればよかったのに」
 そうだ、俺を堕ろせばよかったんだ。そうすれば、今になってこんな思いをしなくて済んだ。少なくとも、親父は死人となって生きる必要は無かった。
「光を許してやって欲しい。あいつは優しい奴だから、あの時、宮子ちゃんから子供を取り上げることは出来なかったんだ。でも御祖父さんの手紙が出てきて、光の気持ちが揺れてしまったんだろう。後で会った時、宮子ちゃんが可哀想で見ていられなかったと云っていた。光には何の罪もないのに宮子ちゃんを守る為に消えることにした。そんな奴が親友で俺は嬉しいよ。もう二度と会うことがなくても死ぬまで親友だと俺は思ってる」
 いつもは口数の少ない人が、こんなに饒舌なのも俺の為なんだろうな。
「解った。もう何も云わなくていいよ」
 座布団の上に起き上がり、おじちゃんに向かって座る。
「手紙を読んだ時も、充分ヘビーな話だと思ったのにな。もういろんな感覚麻痺しちゃったよ」
 まあ戸籍だけの問題なら村崎の家系と山科の家系を繋ぐものはない。まして母さんはおじいちゃんの実子になってるって話だった。婚姻届は問題なく受理されただろう。我が一族ながらとんでもないことやってくれるよ。

「今夜は泊まっていけ。宝雪にまで家出されたら俺は夕子に顔向け出来ない」
 そう云っておじちゃんは仏間に向かって掌を合わせる。
 クスッ
 相変わらず愛妻家だね〜
 死んで尚、ここまで想ってもらえたら、祖母ちゃんも女冥利に尽きるね。

著作:紫草

inserted by FC2 system