『祭囃子』
27
恒例のお花見大会。
葵が生まれてからは夜桜見物ではなく、お日様の下でのお花見になった。この日は久し振りの勢揃いだった。薫の家族と月子の家族も来ていた。桜の花も満開だ。葵も、従姉妹になる薫の娘に遊んでもらって大喜びではしゃいでいた。
みんなが「歩いてくる」と云うので荷物番を引き受けた。こんなに賑やかな場所にいて、俺の周辺だけはやけに静かだった。幸せとはかくも儚いものだったとは。出逢った時には想像もしていなかったな。
「どうしました?!」
突然、声を掛けられ驚いて顔を上げる。そこにマスターが立っていた。
「み、みんなは」
「向こうで出し物があるようで、観てくると云ってます」
云いながら靴を脱ぐと隣に座りこむ。
覚悟を決めよう。桜の中での別れ話もいいもんだ。
俺はマスターに全部を打ち明けた。お袋が二重の禁忌の子であるという事を。加えて親父の事、俺の事、そして葵の将来の事。
包み隠さず何もかも話した。