『指環綺譚』

少 女

 あの日、寒さを凌ぐ為、私は陸橋の下に蹲っていた。道行く人を眺め乍ら、小さな襟を立て腕を組み、可能な限り小さくなって、友の来るのを待った。
 大通りから一本脇に入った道は、人通りこそあれ、小さな街灯は夜を照らすには暗く、そこに居る私に誰一人気付く者はなかった。
 深夜0時を少し廻った、星の綺麗な夜のことだった――。

 カラン、カラン。

 その時、小さな音と共に、それは頭上から降ってきた。
(何だろう)
 と拾い上げ、掌にのせる。
―――キャッツアイ―――
 龍が玉を持つ、というレリーフを施した奇妙な形のリングだった。そして、その玉というのがキャッツアイ、所謂、猫目石だ。

 やがて、私の前に一人の少女が立った。

 彼女は私の手にあるリングを見つけると、自分が誤って落とした物だから返して欲しい、と告げた。よく通るその声は、心地良く耳に届いた。私は、陸橋の下から出てきて向かい合い、リングを乗せた掌を差し出した。
 飛びっきりの笑顔とお礼の言葉、そして仄かな香りを残し、彼女は去った。それまで感じていた寒さすら、暖かさを加えた様に廻りの景色が違って見えた。
 私は暫し余韻に浸り、少女を見送った。

 どの位そうしていたのだろうか。
 再び寒さが体に戻り、思わず首をすくめると、背後から友の声がした――。


著作:紫草

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