あの人は 誰
勇気を出して 胸のうちを打ち明けたのに
嬉しい と云ってくれたのに
気持ちを 受け止めてくれたのに
わたしの知る あの人は何処
寄り添う女(ひと)に 笑顔を見せる
貴男は 誰
わたしが 想いを告げた
あの人は 何処
わたしは何処へ 往けばいい
帰して あの人を
あの 優しかった彼を帰して
独りで待つ 時は嫌い
ただ あの人がいてくれたら
それでいい……
* * *
男の裏切りを疑い始めた女は その胸の内に疑心暗鬼を生む
自らの生み出した感情に 言葉巧みに堕ちてゆく
人の心は 脆い
まるで幻惑される 魔術にかかったように
出口の見えない 闇に捕りこまれゆく――
【終わり】