『愛しい想い』

vol.16

「何もかも話すよ」
 突然の優一の言葉に、私は狼狽した――。

 転院して半年。
 優一は週に二度、このセンターへ通ってくる。
 私の記憶は、何も戻ってこないまま。だからこそ別れた筈の優一が、此処に来る理由が分からない。そして、いつか遠のくだろうと思っていた足が、今も運ばれることに、疑問を通り越して不安を覚えるようになってきた。そんな今日この頃。

 どうして、ここまでしてくれるんだろう!?

 ジョークの心算で言ってみた。
「そろそろ、全部白状してもいいよ」
 と…。
 すると、彼から「何もかも話す」と返ってきた。

(うわっ、まずった)

 でも今更、取り消しはきかないようだ。彼は折りたたみ椅子を持ってきて座ると、私の左手を握った。痺れの残る左の小指。毎日続くストレッチで、随分ごつい指になった。
「どこから話そうか…」

 やがて、彼の口から語られた真実。
 私たちが別れることになったのは、本当に神様の悪戯だったのね。

著作:紫草

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