vol.18
「窓開けてくれる?」
重い空気を追い出してしまいたくて、私は、そう頼んだ。
優一は黙って立ち上がると、窓を全開にする。さぁ〜、っという音と共に薫風が流れ込んできた。
「ありがとう。気持ちいい」
再び彼は椅子に座る。
次に何を話すのか。私は、嫌な予感に苛まれていた――。
「店へ行くことになった時、水商売に片足突っ込むって感じた。魅子のような普通の女の子とは無縁の場所。悩んだけど、このまま縁を切った方が魅子のためになると思った。なのに…」
そこで彼は、言葉に詰まる。
どうしたんだろう!?
「彼奴が、遠山が店に来たんだ」
あ〜、咲子か。
「遠山は元々別の店でホストやってた。うちの店には男がいるからって、よく裏口で待ち合わせしてたらしい。オーナーが俺になっちゃったから、何とか誤魔化そうと思ったけど、彼奴は夜の世界で生きてる女だったから目聡かった。客を装って店に入ったりしてたけど、結局バレてさ」
本来なら、ここで煙草の一本でも吸いたいところだろう。彼の両手がうろうろしてる。
「暫くして、魅子に会ってきたと聞いた」
刹那、射抜かれるような視線が、私の目を貫いた。
咲子は、ちゃんと話をしてくれてたんだ。
「新米オーナーとしては、秘密を守るために遠山を引き抜いた。彼奴は大して条件もよくなかったのに承諾してくれて、魅子にも会わないと約束してくれた」
何だ、そうだったのか。疑って悪かったな。それなら今度は私が話さないとね、優一を自由にする為に。
「あの夜、乗り込んだ形になってしまって、ごめんね。でも、もう分かったから。優一が此処に来る必要はないよ」
言いながら、涙が浮かぶ。自分に、まだこんな感情が残っていたのかと驚いたりもしたけれど、この恋を諦めるしかないと、ちゃんと理解できてるから。
「違う。それだけじゃないんだ…」
表情を歪ませ、しぼり出すように話す優一の声は、どこか泣いているようにも聞こえた。