『愛しい想い』

vol.19

 優一の涙を見たのは、それが初めてだった――。

「どうして優一が泣くの?!」
 私には、分からない。私が泣かせちゃったの?!
「悪い。ちゃんと話すんだったよね。携帯が…」
 そこで優一は右手の甲で、グイっと両目を拭った。

「携帯が、何?」
「携帯が繋がらないんだ」
「誰の?」
「俺から魅子への」
「私、携帯変えてないよ」

 あれっ!?
 何か、変な感じ。頭の中がモヤモヤして、何か思い出そうとしてる。

「頭、痛い」
「先生、呼ぶ?」
 優一の顔が心配してる。私は首を横に振り、
「大丈夫。もう治まった」
 と、答えた。

 きっと、よくない話が待ってる。
 でも今それを聞かないと、優一を自由にしてあげられない。

「続けて。ちゃんと聞くから」
 改めて、そう言った。
「ずっと魅子が携帯を変えたんだと思ってた、あのファミレスで変えてないって聞くまで。あの時、もっと考えればよかったんだ。どうしてメモリーの番号が変わっていたのかを」
 ファミレス…
「ファミレスって、何?」
「思い出せないか? 魅子は国道沿いのファミレスでバイトしてたよ」

 バイト?
 私が?
 信じられない。

「そうだ、届けられた花束に確かファミレスの名前があった。私、働いてたんだ」
 その時だった。
 小さな女の子と、女の人と、そして優一の姿が浮かんできた。
「あ、あの時…」
「思い出したみたいだね。あの時、一緒にいたのは店の客。結構、金払いがいいからって前のオーナーから預かった」
 優一が、私の手を再び握る。
「あの女が、俺の携帯のメモリーを勝手に変えてたんだ――」

著作:紫草

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