『愛しい想い』

vol.02

「聞いたよ、別れたんだって?!」

 何が楽しいのか。心配そうな顔を装い、友人がまた一人遊びにやって来た。
「うん」
 まだ気持ちの整理なんか、ついてない。傷口に塩塗られてる気がするのは、私のひがみなんだろうか。

「どうして、別れたの?!」
 あ〜やっぱり、こうくるか。
 どうして、どうして…
 こっちこそ、聞きたいよ。
 どうして、みんな同じことを聞きに来るの。とっくに、メールで廻ってるでしょ。
 いい男だったもんね、あいつ。私が付き合うって言い出した時は、みんなが残念がってた。だから駄目になって嬉しいの?!

「うん、ちょっとね」
 いつもと同じ答えを返す。
 ちょっと・・、これが“ちょっと”で表していいことなのか。甚だ疑わしいのだが、他に適当な言葉も見つからず、いつもこう答えてる。

「昨夜、見かけたの。彼。それも男とだよ。仲良く飲んでた」
 あれ?!
 今までとは、違った展開。
 今までなら散々彼を罵ったあげく、別れてよかったよ、と残し帰っていく友人達。
 ちょっと興味をそそられて、聞いてみる。
「男と飲んでた、が何か、悪いの?」
「だって、そこ。ホスト倶楽部だもん」
 え〜〜〜〜〜

「ね。咲子は、どうして、そのネタ知ってるの?」
 結構、間抜けな質問だな。
 でも、聞かずにはいられない。
「私?! そこの従業員と付き合ってるもん。で、帰り待ち合わせしてて、店に入ったらいたのよ。彼が!」
 ホストとお酒。
 私も縁がないわけじゃないが、確かにホスト倶楽部で飲む男性客は見たことがない。何考えてるんだか。
「あいつ、ホモだったの?!」
 咲子の問いに、思わず顔面蒼白になった私だった。

 ホモって、ホモ?
 じゃ私は、男に彼を取られたの?
 セーターの話は口実?!
 いったい、どうなってるの?

 そこで始めて、喧嘩の顛末を咲子に話すことにした。
 不思議だな。大学時代から、ある程度仲はよかったけど、こんな立ち入った話をしたことなんてなかったのに。
 でも今の咲子なら話してもいい、と思う私がここにいる。

「実は、よく分かってないの。生成りのセーターを着てたの。まだ、10月になったばっかだよ。で、それ、どうしたのって聞いたら、お母さんが出したからって。で、つい、お母さんってセンスないねって言っちゃって、怒らせちゃって。そしたら付き合いも終わっちゃった」
 咲子は黙って聞いてくれた。この莫迦莫迦しい別れ話を。
「それだけ?!」
「うん」
「そりゃ、答えようがないね」
 そうなの。私、それまで自分が我が儘言ってること、あまり分かってなかった。
 いつも許してくれてたから。だから今回も、そのうち電話があるだろうって思ってた。私も我が儘だったから、自分からは絶対に電話しなかったし。そしたら、人伝に私とは付き合えないって言ってるって聞いたの。
「はい」
 そこで咲子がティッシュの箱を差し出してくれた。
「ありがと」
 思い切り鼻かんで、ごみ箱に捨てる。

「分かった。今度、彼奴が店に現れたら、ちゃんと事情を聞いてくる。それまで待てる?」
 咲子が私の顔を覗きこむ。
「もう待つことすらないって思ってたもん。待てるなら、いくらでも待ってる」
「いい結果が待ってるとは限らないよ。それでも、待てる?!」
 その言葉を聞いた途端、胸の奥がズキンと痛んだ。
 もし本当に駄目だとしても、この恋をちゃんと終わらせないと、私は次に進めない。
「うん。どんな結果でもいい。彼の本心が聞きたい」
「分かった」
 咲子は、そう残し帰って行った。

 この恋の答えは、いつか、出るのだろうか…

著作:紫草

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