『愛しい想い』

vol.23

「今、何て言ったんだ」
 うん。やっぱり、そう言うと思ってた。
 私は、改めて優一に告げる。
「結婚できません」
「だから、どうして…」
 優一は言葉が繋がらず、その後、絶句した。

 居間には、私と優一しかいなかった。
 私は、ジュース飲む? の乗りで、別れ話を切り出した。
 だって今日は気分がいい。
 お天気もいい。
 親もいない。
 最高のシチュエーションだと思わない!?

 優一が煙草に火をつけようと箱を取る。そしてライターに火を点した。
「いつから決めてた、別れるって」
 私の視線は優一のそれと絡み合い、やがて笑顔になった。
「きっと最初から」

 深く深く息を吸い込む。次に大きく吐き出した。
「愛情がなくなった?」
「とんでもない。今も大好きよ」
「じゃあ、どうして」
「優一の人生に、私は必要じゃないから」

 目を見開く彼に、言葉はない。
 そう、私は必要じゃないの。優一には、もっと自由に生きて欲しい。
 そして何より、優一の両親を苦しませて、尚、結婚する気にはなれない。
 それでも今日まで、ずるずると引き止めてしまった。優一にとっても大事な時間。
「有難う。もう充分よ。私、ちゃんと笑ってるでしょ」
 退院して一年。
 もう一人でも大丈夫。私は優一がいなくても、生きていけるところまで強くなったよ。

 煙草を灰皿に押し付けた後、優一が静かに泣いていた。

著作:紫草

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