vol.03
待てる?
咲子が、そう云い残してから、すでに一月以上過ぎていた。
彼女を信用していないわけじゃない。
ただ少し、外へ出たくなっただけ。
ほんの少し、外の空気を吸いたくなっただけ。
そしてネオン煌びやかな、この街へやってきた。
ホストが、キャッチしている場所を掻い潜る。
何処の店にいるのか、皆目見当もつかない。
咲子の彼氏が、どの店にいるのか。探しようがないからだ。
顔写真が飾られる店。
そこに何を捜しているのか。
でも私は、誰かを捜してる。
ホストじゃない、誰かを…。
「魅子?!」
名を呼ばれ、声のした方へ向き直る。
そこには学生時代の友人で、卒業してから音信不通だった稲葉悦子が立っていた。
「何してるの。ホスト遊び?!」
「いえ。咲子を捜してるの」
思わず、違う名を出していた。
「咲子なら、二軒先の店だよ」
悦子は、あっさりと答えてくれた。
「う・・そ」
「嘘じゃないよ。あそこ、二階にネオンついてるでしょ。あそこ」
見上げると、アルファベットの並ぶ看板が見える。
「悦子は、どうしてそんなこと知ってるの?!」
すると彼女は、美しく微笑んで答えた。
「一本隣の道沿いに店持ってる。ただ私は、ホステスの方だけどね」
店。
此処で…。
「凄いじゃん」
「咲子には叶わないよ。彼奴は女で、ホスト倶楽部だもん」
悦子の言葉を理解した時、彼女は私の前から姿を消した後だった。
咲子がホスト倶楽部…
って、どういうこと。
何だか騙された気になってきた。
咲子が何を考えて、私の前に現れたのか。
よく考えたら、私は何も知らなかった。
初めてって、わけじゃない。
結婚資金にと貯めたお金も、もう要らない。
私は三百万の現金を手に、咲子の店と云われた“candlelight”へと入っていった――。