〜あの秋〜

 欲望に 負けて拾った 小さな仔
 晩夏に連れて帰った 仔猫
 真っ黒で やせっぽっちで
 でも 擦り寄ってくるのが可愛くて
 思わず胸に抱いたのは 俺

 その小さくて捨てられてた仔は 産まれてまだ一年くらいだった

『避妊をした方がいいでしょう』

 そんなことは分かってる
 二匹以上に増えたら 困る
 事務的に話を聞いて 入院の手続きをする

 控え室で 妻が呟いた
「赤ちゃん、産みたかったよね…」
 そして こんなに愛嬌たっぷりなのに と

 手術後 一晩いなくって
 その夜 真っ暗な台所で泣いていた妻

 声を殺して 肩震わせて
 一匹の つい先日まで存在すら知らなかった猫のために
 涙を流す…
 こいつは そういう奴

 そんな悲しい背中に 声をかけることはできなかった――

著作:紫草

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