『君のなか』

 真冬の屋外にあって、君は暖かかった。
 そんな君を抱きしめたい、という衝動が俺を襲い、その感情から抜け出すには実行に移すしかないと覚悟を決めた。
 そんな下心満載の手を君に伸ばした途端、振り向かれた。
 如何して、そんなに驚くかな。
 手を引くタイミング、失っちゃったじゃん。

(この手は何)
 という顔のまま手を握られ、さすがにガックリと肩を落とす。
 でも離すことはしなかった。
 そして、そのまま想いをこめて引っ張った。

 飛び込んで来た腕の中で、固まったように動かない君。
 心の底からの想いが、更にきつく抱きしめる。
 上目使いの潤んだ瞳に映るのは、俺。
 耳に届くほどの木枯らしのなか、やっぱり君は暖かい。

 女の子って、よく分かんないとこで臆病になるよな。
 もっと自信持ってていいのに。
 でも伝わっていなければ、意味はない。
 態度で示せば分かるだろう、と押し付けるのが男だろうか。
 言葉で伝える愛情を、大切にするのが女の子なんだろうか。

 「好きだよ…」
 ごめん、不安にさせて。

 人形のように動かなかったその手が、ゆっくりと背中に回ってくる。
 1センチ、2センチ、そして俺を抱くその腕。
 もう離さない。
 この温もりは、他の誰にも渡さない――。
【終わり】

著作:紫草


「木枯らしの中で」著作:李緒
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