その朝。僕は久方振りの帰郷のため、列車に揺られていた。
老いた母、愛しい妻、そして、まだ見ぬ愛息子。
突然与えられた三日間の休暇は、多分特攻としての任務前だと薄々感じている。
どんなに家族が大切だとしても、御国のために僕は飛ぶ。
大本営の発表が、如何に現実と懸け離れていても、待っている敗戦の二文字が脳裏を駈け巡っても、兵隊にとって命令は絶対だから。
それでも自分はいい。
こうして最后に家族に会える。
もうすぐ会える……、筈だった。あと数キロ。
昭和二十年八月六日、午前八時十五分。
まばゆい閃光と共に、それはヒロシマの空の下、無情にも投下されていった――。
【終わり】